医学の小部屋

心拍数と寿命

2011/01/26

 あけましておめでとうございます。
 俗に生まれてから、死ぬまでの心拍数は一定であると言われています。
 心拍数と寿命との関係で興味深いことは、哺乳類では心拍数が速い動物ほど寿命が短いことです。哺乳類は一生の間に10~20億回の心拍数があると考えられていますが、小型動物ほど心拍が速く、大型動物ほど心拍が遅いという事実があります。ヒトでは1分あたりの心拍数は60~100回ですが、これはキリンやトラと同程度の速さです。これらの動物の寿命は20年程度ですが、ヒトの寿命は70~80年と大きくずれています。
 ではヒトだけが特別な種なのでしょうか?そうではなくて、これは疾病予防や治療の進歩に拠るところが大きいのです。したがって、心拍数と寿命の関係においてヒトも例外ではありません。多くの疫学的研究から、早い心拍数と心血管疾患による死亡や心臓突然死との間に強い相関が示されています。
 安静時心拍数が60回未満の人を基準とすると、75回以上の人は総死亡の相対危険度が2倍、心筋梗塞による突然死の相対危険が3.5倍になるという結果があります。しかしながら、心拍数が生存期間の独立した危険因子ではありますが、心拍数を含めた他の危険因子にも焦点を合わせた心疾患死亡の予防対策が必要です。
 心拍数と寿命について、別の仮説、すなわち「心拍数を減らせば、寿命は延びるか」という期待を込めた仮説が生まれてくることも一理あります。しかし、残念なことに健康な人間集団を対象とした研究は今のところ存在しません。ですが、動物実験や心疾患者を対象とした臨床研究からはベータブロッカーなどの薬剤には心拍数を減らす作用があることが分かっています。今後の研究の進展が期待されます。

~平成記念病院 内科 佐藤 宏~