医学の小部屋

大腸癌の予防と診療

2007/03/01

 大腸癌による死亡者は年々増加の一途をたどり、2004年には女性では胃癌を抜いて悪性新生物の死亡原因の一位となり、男性でも肺、胃、肝についで四位になり近い将来、消化器癌の第一位となると予想されています。
 大腸癌の発生には、遺伝的要因に加え、食習慣を含む生活習慣が深く関わっています。とくに、肉類(貯蔵肉や牛、羊、豚などの赤色肉)、加熱魚肉、脂肪分の摂取増加、運動不足、肥満、飲酒などが関与しています。したがって、大腸癌家系、メタボリック症候群、糖尿病、高脂血症患者を積極的に大腸癌スクリーニングの対象とする必要があると考えられます。
 大腸癌の予防については果物、野菜がリスク低下と関連するのは確かのようです。その中のどの物質が寄与しているのかは解明されていません。また、食物繊維が発癌物質を希釈することなどからの理由で発癌のリスクを低下させると考えられてきましたが、最近では疑問視されています。それからもうひとつ、アメリカでは大腸癌の化学予防が研究されていて、NSAID、COX2、PPARγなどの薬剤が試されていて、将来化学予防が実用化される可能性があるかもしれません。
 わが国では便潜血法(免疫法)による検診で、年々大腸癌の発見数は増加しつつありますが、検診率は依然として低率であるのが現状です。アメリカでは便のDNA診断キットが発売されていますが、コストや手技の煩雑さからあまり普及していないようです。最近、CT-colonographyやカプセル内視鏡の開発も進められてきており、大腸癌検診として注目され始めています。
 大腸癌の治療では、早期発見、早期治療がきわめて大切です。癌の前段階で切除できれば、癌におびえることはなくなります。そういった意味で、検診で要精査、あるいは便に血がつくなどの症状のある方は、精密検査である大腸ファイバーをすすめております。
 早期の大腸癌(2cm以内の粘膜内癌、または1000μm以内の粘膜下層浸潤癌)は内視鏡にて完全切除が可能となっています。一方、手術不能の進行大腸癌に対する化学療法も急速に進歩しつつあります。
 いずれにしても現時点では、腫瘍内科医が不足するわが国では、内科医とくに内視鏡治療に卓越した消化器内科医が中心となって治療にあたり、また化学療法に対する知識を持ち、現実の患者に対応していかなければならないと考えられます。

平成記念病院内科(消化器病専門医、消化器内視鏡専門医)  佐藤宏